不器用ハートにドクターのメス
当時の指導者からは、人と関わる仕事は向いていないと怒られ、どうしても看護師になりたいなら、患者とコミュニケーションを取ることがほぼない手術部に入れば?と切り捨てるように言われてしまった。
そういった心折れる出来事が度々重なり、また、看護学校に通っておいて今さら違う職業に方向転換するわけにもいかず……消去法という悲しい理由で、真由美は今、この大学病院で、オペ看として働いているのである。
怒鳴られ続け、精神を削られ続け、いよいよめげそうになったころ、やっとオペは終了した。
完全密室・無菌状態だったオペ室の、自動ドアが開く。
真っ先に出て行ったのは、執刀医。その後に麻酔医、臨床医、とドクター陣が続いていく。
「福原さん。器械、滅菌室に出しといてね」
目を合わせないまま早口でそう言い、ドクターたちに続いて足早に出て行ったのは、記録や患者の全身管理を行う役割として入っていた、もう一人のオペ看、山下菫だ。
オペ看歴4年目になる山下は、真由美の教育指導役をつとめてくれているのだが、彼女がまともに真由美と目を合わせてくれたことは、いまだかつて一度もない。
真由美の性根は相手想いの気遣い屋なので、長く一緒にいれば真由美の良さが伝わり、「なーんだ、いい子じゃん」と可愛がってもらえることも多いのだが……新しい環境に身を置くとき、怖い・生意気・感じ悪いというレッテルをまず貼られてしまうため、真由美はいつも大変苦労するはめになる。
それに学生時代とは違い、社会人同士という仕事を挟んだ間柄では、そもそもプライベートな会話や交流の機会が少ない。
レッテルをはがして打ち解けることは、真由美にとって、よけいに困難な課題となっているのであった。