不器用ハートにドクターのメス

看護師は仕事に励む

◇ ◇ ◇


午後からは降水確率が高くなります。お出かけの際はカサをお忘れなくーー

そのようなことを、朝のニュースで、気象予報士が言っていた。

たしかに朝から、空に浮かぶ雲には重みがあり、空気が肌にまとわりつく感じも、これからの雨を予期させるものだった。

天気予報が当たっているのであれば、定時をとっくに過ぎた今の時刻、雨はもう降っているのだろう。

けれど、そのことを確認できないオペ室内に、真由美は未だ残っていた。

真由美が今日、最後についているオペは、肝切除というオペだった。

肝切除は、オペのなかでもわりと基本的で、格別難しくないとされているものだ。

けれど、本日の患者は開腹オペの既往歴があり、その影響で体内部の癒着が激しかった。

度合いは想像以上で、オペは滞り、3時間で行う予定のところをかなりオーバーしてしまっていた。

心づもりのない処置の連続。いらだっていくドクター。

応用がきかす、マニュアル通りでないと動けない真由美にとっては、それはもう、生きた心地がしない時間であった。

予定時刻を2時間ばかり過ぎたころ、ようやくオペは終了した。

器械を滅菌室に送り出したあと、真由美はとぼとぼと待機室に戻る。

待機室は、オペ看が主に休憩に使う場所だ。

いつもなら、仕事あとに残って雑談する先輩が数人いるのだが、今日にかぎっては、待機室はがらんどうで貸し切りだった。

自分がついたものほど長引いたオペはなかったのだろう。

真由美は一息つくと、外来で使わなくなったものを持ってきたという古びた合皮ソファに尻を沈め、いつものノートを開く。

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