不器用ハートにドクターのメス
真由美が振り返る前に、「お疲れ」という低い声が落とされ、あ、と思った次の瞬間にソファが揺れた。
遠慮なく勢いづけて真由美の横に座った人物は、白衣をまとった神崎だった。
落ち込んでいた真由美の心は一気に跳ね上がり、全身にぐっと力が入る。
「神崎先生……」
「お前、人の気配察知すんの遅すぎだろ。けっこうドカドカ入ってきたぞ、俺」
「あ、あの」
「ん?」
「お疲れさまです……」
ぼそぼそと言うと、神崎は破顔して「ワンテンポおせーよ」と笑った。
顔と顔の距離が近い。
少し気を抜けば触れあってしまいそうな危うい十数センチの距離にどぎまぎし、しかも笑った神崎の頬にえくぼができることを見つけてしまい、ますます鼓動を速めながら、真由美は押さえ気味に息を吐く。
一ヶ月近く前、旧書庫で抱きとめられた日以来――真由美はどうも、神崎のことを過剰に意識してしまうようになった。
意識してしまうたびに、こんなのはおかしい、と真由美は自分をいさめにかかる。
おかしい。ちがうのだ。あれは事故のようなものなのだ。
きっと先生は、あの時のことをなんとも思っていない。向こうからしたら、あ、そんなことあったっけ?というレベルかもしれない。
そう思うけれど、やっぱり意識するのをやめられない。
正直離れたところから姿を見るだけでも、体が火照ってしまうのに、それ以降神崎の方から積極的に接触してくるので、真由美はいつもいっぱいいっぱいだ。