不器用ハートにドクターのメス
真由美は自分に言い聞かせる。
先生は、わたしが出来損ないであるがゆえに情けをかけてくれているだけなのだ、と。
仏心なのだ。それなのに勝手にドキドキして、邪な気分になるなんて、なんていけない女なんだ、わたしは。
「今日は何のオペだったんだ」
真由美の心内の葛藤など知る由もなく、どことなく楽しさをを含んだ声で、神崎が聞いてきた。
目を覗きこまれ、真由美は瞬間移動で逃げたいという思いにさいなまれながらも、なんとか口を開く。
「VATSと、前十字靭帯再建と……あと、肝切除の……」
「ほー。で、どうだった」
「……全然、駄目でした」
「だろうな」
ぎっしり書き込まれているノートのページを横目で見て、神崎は食い気味に言った。
そして、あたかも自分のものであるかのように、ノートをその手に取り上げる。
「……にしても、綺麗な字してるよな、お前。こないだも思ったけど」
「えっ」
突然予想外の箇所をほめられたことに、真由美は一瞬放心する。
たしかに幼いころ習字を習ってはいたが、自分では人様に褒められるような字を書けているつもりはない。
「……そんなこと、ないです」
「いや、うまいよ。俺超汚ねーもん。貸してみ」
神崎の指先が、さらりと、真由美の手からペンを奪う。
真由美がどぎまぎして固まっている間に、神崎は「あー……」と渋い声を出し、少し迷う素振りを見せたあと、さらさらと何かをノートに書き込んでいく。