不器用ハートにドクターのメス

「……な?汚いだろ」


いたずらっぽさを含んだ声で、神崎が言う。

神崎の手が離れ、そこに見えた文字に、真由美は思わず目を見張った。


”福原真由美”


ノートの余白には、しっかりとした筆圧で書かれた、自分の名前が浮かんでいた。

とくん、と優しい音で心臓が鳴る。

フルネームを知られていたことに驚きつつ、真由美はふるふると、首を横に振った。

汚くなんかない。かっこいい字だ。

右上がりで、角張っていて堂々としていて、男の人っぽくて……とても、神崎先生っぽい字だ。

胸に響く音が、どんどん速くなっていく。

意味不明な鼓動の高鳴りを抑えようと、真由美が息を吸い込んだ瞬間、頭に軽い振動が走った。


「え……わっ、えっ」


撫でられている。

そう自覚するまでに、数秒かかった。

大きな手でがしりとつかみ、髪に指を差し込むようにして、神崎は真由美の頭を、わしゃわしゃとかき混ぜていた。


「あ、あの……」

「頑張るのはいいけど、遅くならないように帰れよ」


自分に向けられた声に、真由美は息を止めた。

心臓も一瞬止まり、そのあと体内から出てしまうのではないかというほどに、飛び跳ねた。

反応するのは、心臓だけではない。触れた部分からさざなみとなって、ときめきが全身に広がっていく。

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