不器用ハートにドクターのメス

真由美の必死の紹介に合わせ、神崎が落ち着いた笑みを浮かべて礼をする。

とたん、逆に落ち着きをなくしだしたのは、真由美の母親だ。


「あらっ!!あらあらまあまあ!!」


真由美を心配する表情から一転、オーラ全開の男前を娘が連れてきたことにえらく感激し、ずいと一歩前に出て、神崎に熱視線を送る。


「ありがとうございます……!お疲れのところ、娘をお送りくださるなんて!!」

「いえ、病院から近かったですし」

「あのっ、せっかくだからお茶でも……!」

「いえ。ありがたいですが、お構いなく。娘さん、まだしんどいでしょうし、休ませてあげてください」


真由美母の熱のこもった誘いをうまく受け流し、神崎は真由美に向かって目をわずかに細め、「じゃあな、福原」と口にする。

自分に向けられた言葉と目線に、真由美は慌てて、跳ねるように頭を下げた。


「あ、ありがとうございました…っ!」

「……そうよね!まだキツいわよね、真由美。家に入りましょう。歩ける?」


真由美の生理痛の酷さをよく理解している母親は、先ほどののぼせあがった様子とは打って変わって再び神妙な顔になり、真由美の体を支える。

二人して、家に向かって歩き出す。

そしてこの場に残ったのは、さっきから何もしゃべらないでいた、真由美の父親だ。

父親が突っ立ったまま一向に動かないので、神崎は、帰ろうと車のドアにかけていた手を外し、不思議に思いながら、軽く首を曲げて礼をする。

真由美を男にして、さらに悪どさをプラスしたような外見の父親は、眉間にシワを何本も刻んで、神崎に言った。


「……先生、ちょっとだけよろしいですか」

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