不器用ハートにドクターのメス
そもそも落ち着かないとか、他人に対して心配するとかいう現象が自分に起こっていること自体が、おかしいのだ。
そう思って、神崎は、無意識に顔をしかめる。
医療職に就いている身であるくせに、自分は本来、本当に薄情な人間だ。
自分でもどうかと思うほどの無慈悲っぷり。他人には必要以上に干渉しないし、困っている他者に対して、わざわざ手を差し伸べようとも思わない。
だが、福原に関してだけは、なぜか違っている。
捨て置けない。一人でいるところを見かければ、いちいち構いたくなってしまう。
無駄に過保護になってしまうし、ちょうどいい高さにある頭に、手を置いてみたくもなってしまう。
理解したいと思う。まだ知らない表情を見てみたいと思う。
自分が、その表情を変えてやりたいと思う。
このような感情を覚えることは、神崎にとっては初めての経験であった。
そしてそんな自分に、神崎は少なからず困惑していた。
少し前までは、どんな人物かわからなかったがゆえに、意図的に近づいていた。明確な答えが得たかった。
それだけだ。単純なことだった。
それなのに、人物像をはっきり把握した今も、なぜ近づきたいと思うのか。
なぜ放っておけないのか。こんなふうに、自ら進んで、迎えに来てしまったりするのだろうか。
目頭を揉んで、神崎は前傾していた体を起こす。
同時に、前方の視界に動きがあった。刑事のように見張っていた一軒家の玄関扉が開き、真由美がひょこっと、姿を現したのだ。
真由美は首を回し、神崎の車を発見するやいないや、ぱたぱたとせわしない動きで駆け寄ってきた。