不器用ハートにドクターのメス
「あー……あれだ」
コホンと一つ咳ばらいをして、眉根をひそめ、神崎は続ける。
「俺から言ったんだよ、ついでに迎えに来るって。昨日の今日だ。電車で倒れないとも限らねーだろ」
「で、でも……昨日だけでも散々……」
「いいから、乗ってけ」
さすがに二度も乗れと強めに言われては、遠慮の言葉を連ねることができなかったらしい。
真由美はそろそろと、助手席側に回ると、昨夜と全く同じように、緊張した硬い動きでドアを開けた。
「すみません……ありがとう、ございます……」
そして、ゆっくりと、まるで振動を微塵も起こさぬチャレンジにでも取り組んでいるように、丁寧に座席に腰を下ろす。
目線を少し下の方に置いて、「よろしくお願いします」と、小さな礼をする。
真っ直ぐ落ちる黒髪の間にちらりと見えた表情から、まさかこんなことになっているなんて、という困惑の気持ちと、本当にいいのだろうか、と遠慮する気持ちが伝わってくる。
はたから見れば憮然とした顔でしかないのだが、神崎はいつの間にか、真由美の微々たる表情の変化に、心情を見出せるようになっていた。
まだ薄暗い世界。神崎と真由美をのせて、車が発進する。
車内には、洋楽のBGMが流れている。
神崎の好みというわけではない。いつか知人が勝手に置いていったCDで、他にかけるものがなかっただけの話だ。
……こいつは、どんな音楽が好きなのだろう。
運転しながら、神崎はちらりと、助手席の真由美に視線を送る。