不器用ハートにドクターのメス

うつむいたまま、吐かれていく過去の事実。真由美の拳は、若干色が変わるほどきつく握られている。


「そんなことばかりが続いて……わたし、自信をなくしてしまって。本当にやりたいことから逃げて、言われた通り……手術部を、選びました。でも……その逃げ道も、わたしなんかには、向いてなかったんですけど……」


声が、明らかにしぼんでいく。

真由美の肩先も、それに倣うように、内側に丸まってしぼんでいく。


「でも、働かせてもらっていて……患者さんに、申し訳なくて。わたしみたいに、中途半端な志の人間に、一大事の手術に関わられるなんて、嫌だろうなって……」

「………」

「それで、一生懸命、頑張ろうって、思うんですけど……失敗して、迷惑かけてばかりだし……たまに、落ち込んだ時とか……ほんとにやりたい仕事じゃないのに、とか思っちゃう自分がいて……っ、ほ、本当に、最低だなって……」


……真面目か!!

真由美の長い吐露を全て聞き終えた神崎は、そう、心の中でツッコんだ。

こいつは、働いている人間誰しもが、高尚な志を持って仕事をしているとでも思っているのだろうか。

他にしたいことがあるのに、だの、金をもらうためだからしかたない、だの、心の中では苦情を生み続けている人間の方が逆に多いだろう。

自分だって、オペは好きだが、その他の雑務は面倒で極論やりたくないと思っている。

適当にこなすし、人任せにしてしまうこともある。

社会人はみな、仕事を心から楽しいと、頑張ろうと、常に意欲的に取り組めているわけじゃない。そういう人間の方がごくまれだろう。

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