不器用ハートにドクターのメス
「いや、友達ってなんだよ……」
真由美と別れ、一人でたどり着いた6階の宿直室。
ドアの内側に入るなり、神崎は肩を落としてぼやき、自身に向けた失望のため息を吐いていた。
……友達に、なってやる、なんて。
自分がまさか、そんなダサいセリフを口にする日が来ようとは思わなかった。
今しがたの発言が信じられずに、神崎はくちびるをわななかせる。
友達宣言なんて、いったいいつの時代の青春マンガだ。しかも、なってやるって。何様だよ。
落胆しながら、神崎は思う。
やはり福原真由美の前では、自分はどうもおかしくなる。
変だ。冷静さや、制御といったものが、駆けてしまう気がする。
……最初はただ、どんな女だろうと思っていただけだったのに。
うつろな目線を宙に投げ、神崎は考える。
何度も繰り返している疑問。なぜ答えが出たのにも関わらず、興味が薄れないのか。
一カ月ほど前。非常階段で二人きりで話したとき、自分はたしかに、高揚を覚えた。
それは今までの人生において経験した、女を自分のものにしたいという衝動に、似ているようで似ていなかった。
俺は、福原を、自分の手中に収めてみたいのだろうか。
それともかつてのような、陥落させたいというゲーム感覚の感情とは、別物なのかーー?
気恥ずかしいような、もやもやしたものが体内にはびこっていく気がする。
最近の自分がわからない。自分の行動も理解できない。
そして神崎が今、自分にひどく幻滅しているのは、なにも友だち宣言をしてしまった件に関してだけではなかった。