不器用ハートにドクターのメス
『……今度の土曜、あいてるか』
宣言のあとに、焦ったように、デートの約束を取り付けてしまっていたのだ。
余裕がなかった、と、神崎は思う。
はたから見れば、バカみたいに必死でかっこわるい誘い方だっただろう。
巻き戻して取り消してしまいたい。過去を振り返って後悔するなんて、めったにしたことがないのに、そんなことを思ってしまう。
そもそもなぜ、一緒に出かける約束なんて。
「なんなんだよ……」
深い息とともにそんなセリフを吐き出し、神崎は、宿直室に置かれた簡易机に突っ伏す。
先ほどまでの自分に吐き気すら覚えているにも関わらず、神崎の心の奥底には、すでに、土曜日が楽しみだという感情が湧いてきていた。
『……あいてるなら、用事に付き合え』
土曜の予定を訪ねた後、神崎は照れ隠しに、そんな付け足しをした。
真由美は驚き顔のまま、戸惑いながら、こくんとうなずいた。
その仕草を思い出し、神崎はいっそう胸にむずがゆいものを覚えて、より強く、机にひたいを押し付けたのだった。