先生、ぼく死にたいんですが

「先生」
裕介が口を開いた。ぎこちないが、その目はたしかに松岡を捉えている。
「ん？なんだい？」
「ぼく、もう少し、生きてみるよ」
「そうか。えらいね。でも、無理しちゃいけないよ。少しずつでいいからね」
「また来ても、いい？」
「もちろんだよ。辛くなったらいつでもおいで。先生、待ってるから。後、イジメについてはお母さんや、お父さんや、先生に相談した方がいいと思うよ。そしたら、きっと助けてくれるから。みんな君の味方だから、安心して頼るといいよ」
「先生、ありがとう。ぼく、先生が先生でよかった」
そう言うと、裕介は松岡に深々と頭を下げ、診察室を後にした。
　あれから10年の月日が経ち、裕介はこの春、結婚する。彼にもようやく春が訪れたようだ。最高の笑顔と共に―。