いつか孵る場所

１．苦い想い出

１月、寒い日の夕方の事だった。

「うーん、同窓会かあ」

門真 真由はポストを開けるなり呟いた。

手に取った往復葉書には高校の同窓会の案内が書かれてある。

「うーん、どうしよう」

今まで一度も行った事がない、同窓会。

怖くて行けなかった。

柏原 拓海の事が溢れだしそうで。

「保留にしておこう」

そう呟いて、家の中に入った。

それからしばらく、洗濯物を取り入れたり、夕飯の準備でバタバタしていた。

「ママ、さっきから電話鳴ってるよ？」

息子の知樹がそう言って、初めて携帯が鳴っている事に気がついた真由は慌てて手に取り、着信を確認する。

−　高石 透　−

高校の同級生。
学校一の秀才と呼ばれ、現役で国立大の医学部に入学し、現在は地元の総合病院の小児科医だ。
高校の時は拓海と仲が良く、その関係で真由も話はよくしていた。

「ごめんね、忙しい時間に」

電話の向こうの口調はいつも穏やかだ。

「いえいえ、どうしたの？」

真由も忙しくても穏やかな口調になる。

「同窓会の案内、来た？」

「うん、来たよ」

一瞬の重さを含んだ真由の口調に透はクスッと微笑んで

「行きたくなーいって感じだね」

「行きたくな〜い」

真由がまるで幼児のように言うのでますます笑みが溢れる。

「その日、僕、仕事休みなんだけど一緒に行かない？」

「えっ」

突然の誘いに真由は戸惑う。

「…僕が一緒にいたら拓海くんの話は出ないよ、きっと」

透は名前の如く、真由の考えなど見透かしていた。

「それに今まで色々あったから、同じ年代の人達と騒ぐのも良いかな、と思って」

昨夏、真由は10歳歳上の夫、総一を亡くした。

その時、深い闇に墜ちた真由を影で励まし続けたのは透だった。

真由の心は全て読まれている。

「じゃあ、行こう」

透の好意を邪険にするのも悪いし、限りなく行きたくないけど優しい透を傷つけたくない。

そう返事するしかなかった。