いつか孵る場所
「じゃあ、ハルちゃん。また連絡するからね!」

店を出て、桃子はヘルメットを被り、グローブをつける。

「お気をつけて」

ハルが微笑むと桃子は嬉しそうに頷く。
くるりと方向を変え、至を見つめると

「至さん、どちらが早く家に着くか競争しよう!」

「…桃ちゃんの方が絶対に早いから、ゆっくり帰るよ」

至は呆れ返りながら、桃子の肩を叩いた。

桃子はバイクに跨がるとエンジンを掛けて軽やかに走り去った。

「じゃあ、帰るよ。あまり遅く帰ると桃ちゃんは拗ねるからね」

至は車に乗り込んだ。

「ご馳走さまでした」

ハルが深々と頭を下げると

「いえいえ、また桃ちゃんの相手をしてあげてね」

そう言って至はドアを閉めた。



至が去った後、透はハルを見つめて微笑む。

「さて、ハル。
家に帰る?それともどこかに行く?」

そう聞くときはもう、自分の中で何がしたいか決まっている時だ。
ハルは聞き返す。

「透はどうしたいの?」

「ドライブしてハルと色々話したい」



別にどこかへ行く、というわけでもないドライブ。
ハルと再会する前はストレスを感じたら一人で度々していた。
隣にハルがいると少し緊張するけど、それは胸がドキドキしている所為なのだと思う。

「桃子さん、中々のキャラでしょ?」

透はクスクスと笑っている。

「うん、驚いちゃった!お兄さんの奥さんっていうからもっと大人っぽくて旦那様を支えているタイプと思ってた」

あの、目のキラキラ感は一度見たら忘れられない。

「二人は兄さんが28歳、桃子さんは18歳の時に結婚したんだ」

「はい?」

高石家でそんなことがあり得るのか?
いや、あり得たから今でも夫婦だけれど。
ハルは口をあんぐりと開けて透を見た。

「親同士が勝手に決めた結婚だよ。桃子さんは大学に入学したばかりだった」

透は深いため息をついた。

「兄さんは僕が自分で選んだ大学に行かせるために結婚したんだ。親は僕を地元の大学に縛り付けたかったけど、僕は何もかも嫌になって一人になりたかったからあの大学を選んだのに。反対する親に向かって結婚話を受けるから透は自由にさせてやって、って」

酷い話だよね、って言う透の横顔は本当に切なかった。
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