いつか孵る場所
「先程からこちらの様子を伺われているみたいですが何か御用ですか?」

「えっ、いきなり、何?」

大竹だった。

「知り合いでしょ?」

桃子はハルに聞く。
ハルは頷いて、

「上司」

とだけ言った。

「たまたま淡路さんに似た人だなあって思って見掛けただけで…」

桃子は一瞬ため息をついて下を向くとすぐに顔を上げた。

「上司とは失礼致しました。
私は淡路ハルの姉です。
いつもハルがお世話になっております」

豹変したかのように口上を述べて桃子は頭を下げる。

「最近、誰かわからないけれどストーカー紛いの事をされていると相談がありましたので今日は迎えに来ました。
では此れにて失礼します」

桃子は深々と頭を下げるとハルの手を引っ張って足早に立ち去った。



「…嫌なタイプ」

桃子はハルの手をギュッと握って呟いた。

「ハルちゃん、完全にロックオンじゃない。
透さんは、知らないの?」

「一度、病院で会ってるけど…。こういう事は知らない」

ハルの手が小刻みに震えているのがわかる。
桃子は手をしっかりと握る。



しばらく歩いてハルと桃子は個室のある居酒屋に入る。
二人とも飲まないけど。
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