いつか孵る場所
「ハルちゃん、会社辞めちゃえば?」

席に着くなり桃子は言った。

「あれは怖い。
何か嫌な予感がする」

「でも…」

「本当に何か大変な事が起こる前にどうにかした方が良いと思う」

桃子は注文したウーロン茶を一口飲んだ。

「透さんにも早急に知らせた方が良いかな…。言い出し辛いなら私が…」

「透には私から言うから」

「そう?なら良いけど。でも、忙しいから言い出せないとか思ってるんじゃないの?」

ハルはゆっくりと頷いた。

「それにね、副部長がかっこいい女性でその人と仕事していたら本当に楽しいの。もう少し今の仕事はしたいなあって」

「そっか、難しいねえ」

桃子は天を仰ぐ。

「それならもう少し様子見か…。
でも、ダメだと思ったら辞めちゃいなよ!透さんは辞めたところで何も言わないと思うし」

「うん、辞めるときには次の仕事見つけておくわ。
まだ妹が大学に行っているので仕送りもしないと…」

「ハルちゃん、何だか色々と大変ね。
苦労をしていることを知っているから透さんはハルちゃんの事が大好きなのよね。
男に経済力があっても頼りにしていないところがいいのかも」

そういう桃子もそうじゃないのか、ふと、ハルは気になって

「桃子さん」

と呼びかけると

「ハルちゃん、硬い」

桃子は人差し指を立てて横に振る。

「桃ちゃんでいい。ただし、そう呼べるのは至さんとハルちゃんだけよ。
あ、但し、ハルちゃんに子供が生まれたらその子もOK!」

何故、透は入っていないのだろう。

「じゃあ、桃ちゃん」

「なになに???」

「桃ちゃんこそ、どうしてお仕事しているの?っていうか何の仕事をしているの?」

桃子はにやりと笑うと

「よくぞ聞いてくださいました!!」
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