いつか孵る場所
「私は保育士なの」

「…保育士さん?てっきりお医者さんか看護士さんかと」

「みんなそう言う」

ニコニコと桃子は笑った。

「私は父の後を継げるような学力もなかったし、子供が好きだからそれで幼児教育の道を選んだんだけどね。一応幼稚園教諭と小学校教諭の免許も持ってるのに…」

段々表情が暗くなっていく桃子は大きなため息をつく。

「子供が出来なかったのよね。
方法はあったけど、夫婦仲が悪くなるのが嫌だから私、拒否したの」

そう言って桃子は様子を窺っているハルを見て慌てて首を振った。

「そうはいえども、子供は大好きだからね!
私には今まで関わった子全てが自分の子供の様に思うし、もしハルちゃんに子供が出来たら是非!!
いつでも預けて!!」

桃子の凄い勢いにハルはうんうん、と頷いた。



「遅くなったから送るね。ちょうどハルちゃん、パンツスーツだしね」

二人が店を出たのが0時前。
ついつい色々なことを話してしまった。

「ええっ、私、後ろ乗れるかなあ」

「大丈夫!そんなこともあろうかと今日はスクーターよ」

ハルが先日見たバイクとはまた違ったタイプだった。

「一体、何台持ってるの?」

その問いに桃子は上を向いて指を折る。

「…まあ、色んな種類があるんだけど、多分10台」

「それってお兄さん、乗るの?」

「乗らない。私一人で日替わり」

ハルは軽い眩暈がする。
やはりスケールが違いすぎる。
いや、これは至と桃子だからこそ、と思いたい。
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