いつか孵る場所
「ばくだん…」

昨日の至の発言を繰り返し言ってみる。
そして自分の下腹部にそっと両手を当てた。

まだ何もわからないけれど、ハルも何となくそういう気がしている。

透と再会してから頭の中のもう一人の自分が

『もう後戻り、出来ないよ』

と何度も呟くのだ。



あの時…



「ちょっと、透!」

この人、一体何時間寝ずにいるのだろう、と身体の興奮は最高点に達しているのに、妙に冷静な頭は思った。

「ハル、何?」

その甘い声がハルの背中をゾクゾクさせる。

「避妊は?」

そんな甘い声には誘惑されないぞ!と頭の中で叫ぶ。

「ああ」

透はそう返事するけれど空返事のようで。

ハルの耳元にそっと口づけて

「まあ、僕達の年齢になるとうんと確率は下がるからね。
出来たところで逃げる訳でもない。
その方が僕にとっては色々と都合が良い」



その後は…もうどうしようもない。



− ああ…本当にそうだったら顔から火が出るくらい恥ずかしい話だわ −

会社にもどう言おうとか透の両親は…とか。
あと、ナツ。
ナツにはまだ透と再会した事も言えていない。

だから透が性急に両親に会いに行こう、と言ったのだと思うけど、ハルにはまだ無理だった。



更衣室で制服から私服にに着替え、部屋を出る。

夕方からは転勤してきた社員の歓迎会。

今日はハルの部署はほぼ定時上がり。

この後に会う、大竹の事を考えると少し気が重たい。

ハルは足早に会社を後にした。
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