いつか孵る場所
歓迎会の宴は和気藹々としていた。
大竹は幸い、席が離れてホッとしている。

「顔に出てるわよ」

副部長、神立が隣に座った。

「あ…」

どうやら大竹を睨みつけていたみたいで。
ハルは頬を触ってほぐした。

「彼とはどう?」

「この数日は会っていません。かなり忙しいみたいで…」

今週、透に会えたのは二人で1日過ごした日曜日。
電話もほとんどない。

「そう、勤務医も大変ね」

チラッと話が聞こえたのだろう。
周りにいる女子社員が急に話に割り込んできた。

「淡路さんの彼氏って大竹課長じゃないの?」

ハルは座っているのに後ずさりしようとした。
思わず固まってしまう。

- みんな、そんな風に思っているんだ… -

「…違います」

小さい声でそう言うのが精いっぱいで俯いてしまった。

「ええ?じゃあ二股?」

どうしてそんな発想になるんだろう。

「違います、大竹課長とは付き合っていません」

ハルは鋭い眼差しを向けてはっきりと言った。

「俺が何って?」

そこへ大竹まで乱入してきた。

「じゃあ、ご本人に聞いてみよう~!!」

この女子社員はかなり酔っているみたいでハイテンションで話し続ける。

「大竹課長は淡路さんの事、どう思っているんですか?」

「ええっ、そんな事を聞かれても」

チラチラと大竹がこちらを見るのがわかる。
ハルは無視をして下を向き続けた。

「俺は淡路さんの事、お気に入りだけどね」

周りから歓声が上がる。

「大竹君」

神立が大きく咳払いをする。

「相手が嫌がっているのにそういう事を言うとセクハラよ」

一瞬、そのテーブルが静まり返った。

「淡路さんが大竹君に好意を抱いているなら、今頃淡路さんは笑顔でいると思う。
でも、彼女は明らかに苦痛の様子。わからない?」

神立はハルの体をぎゅっと抱きしめる。

「周りも同じよ、囃し立ててそんなに楽しい?
さっきから彼女は付き合っていないし、二股もしていないって言っているのに。
そんなに楽しい?いい加減にしなさい、人を見下したり、度を越えて茶化すのは」

ハルの肩を軽く叩いて慰めると

「それに今日は歓迎会。こんな話で転勤されてきた方の会を汚すのはまっぴら御免。
以後、この話は持ち出さないこと、いいわね?」

神立の迫力にこのテーブルにいた人間は頷くしかなかった。
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