いつか孵る場所
医者になろうと何となく思ったのはその時かもしれない。

歳の離れた兄。

幼稚園の時には中学なのに国立大学医学部へ向けての勉強、勉強で遊んで貰う事もない。

どう接して良いのかわからず、小さい時から避けていた。

けれど、後からよく思い出してみると、受験でもこっそり透の手を引いて夕暮れの公園で遊んだり、お菓子を買ってくれたり。

本当に時々だけど、そういう事もあったのに。

家に帰ると母の剣幕が凄かった。

「僕が連れて行ったんだ」

と至が言っても、透の我が儘のせいだ、と言われた。

父にも話が入り、小さい透が叱られた。

その度に至も説明するけど、取り合わない。

「ごめん、透…」

至はいつも後から謝り、そのうちこういう事の繰り返しが嫌になって透の相手もしなくなった。

透も小さいながら自分から距離を置いた。



だからハルとナツの関係はどこか羨ましかったのかもしれない。

自分にはない関係が彼女たちにはあった。
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