いつか孵る場所
8.懸け橋
透の指示通り、月曜から1週間、有給を取ることにした。

神立には何があったのか伝えると

『え~!!ちょっとそれって犯罪よね!!』

と怒り狂っていたが騒ぎを大きくしたくないので今回は黙っておいてもらった。

とはいえ。

1週間。

透の家で何をしよう。



ハルは透の家では滅多に起動しないテレビをつけて、ソファーで新聞を広げて読んでいた。
透は朝早くに家を出て、今日も当直とのことで帰ってこない。
テレビも新聞も早々に飽きて、ソファーに寝転んだ。



今までずっと仕事をしているのが当たり前だったから、どうしていいのやらわからない。



《ピンポーン》

チャイムの音が鳴る。

インターホンのモニターを確認すると。

キラキラ目をした桃子が手を振り、その横にはスーツを着た男性が頭を下げていた。



「ハルちゃん、これはどう?」

「ええ〜!わかんない」

目の前には大量の服やら靴やら鞄やら。
透がデパートの外商を呼んでいたのだ。
ちなみにこの外商、至とも取引がある。
それで桃子も仕事を休んでやって来た。

ハルにとってこんな買い物をした事がないので戸惑っていた。
何をどうしたら良いのか見当もつかない。



「透さんに頼まれているの。
ハルちゃんに似合う、服を普段着は10着、スーツは3着、選んでって。
これが最低ライン。
それ以上に気に入った物があれば尚、良しって」

「そんなの、聞いてないし」

透は何も言ってない。
いきなりこれはビックリする。
今すぐ透に抗議したい気分だ。

「ここにある服は全て透さんが最初に選んでるのよ、ハルちゃん」

「はい?」

思わず変な声を上げてしまった。

「本当は一緒にショッピングに行ったりしたいけど、至さんより多忙だしね。
仕事の合間にネットで選んで全てのデータを外商の神楽さんに届くようにしてあるの」

神楽という担当者は紳士的な笑みで頭を下げた。

「はあ…」

自分を思ってしてくれるなら、仕方がない。
ハルは商品を手に取って品定めを始めた。
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