いつか孵る場所
診察が終わると病室に戻り透はベッドに腰を掛け、横になるハルを見つめた。

明らかに痩せたのが痛々しい。

「本当はこういうところで言うつもりはなかった」

ちらっと透は部屋を見回した。

「でも、時間がない」



大きく深呼吸をして白衣のポケットからブルーボックスを出して指輪を取り出す。

上品でありながらしっかりと中央に鎮座するダイアモンド。
キラキラと輝いていた。
それをハルの左薬指にはめた。

ピッタリでハルは目を丸くする。

「ハルが寝ている時にコッソリ測った」

その発言に思わずハルは苦笑いをする。

「一回しか言わないからちゃんと聞いて」

透の真剣な眼差しがハルの瞳を捉える。

「僕と結婚してください」

しばらく二人は見つめ合っていた。

やがてハルは小さく頷くと

「はい」

と微笑みを浮かべ、しっかり返事をした。



透はホッとした様子でハルの額にキスをすると、胸ポケットから折り畳んだ紙を取り出す。

「ハル、これも書いて」

広げたのは婚姻届。

透の名前等はもうすでにきっちり記入されていた。

「ハルが退院したら、一度僕の実家に行こう。
証人欄には父と兄に書いて貰おうと思う」

「うん、そうね」

ハルは承諾した。
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