いつか孵る場所
「…で、皆さんお揃いで何をしてるんですか?」

透は軽く舌打ちをしてハルから離れ、足音を立てずそっと病室を歩いて、勢いよくドアを開けた。

そこには噂を聞きつけたあちこちの部署の看護師やら事務やら色々。

さすがに医師は誰もいなかったが。



「お…おめでとうございます、先生!」

最初に口を開いたのは小児科病棟担当の看護師。

それから口々にお祝いの言葉を掛けられる。

そして、皆、一斉に逃げた。



透はやれやれ、といった様子でハルをちらっと見る。

ハルもクスクス笑っていた。



「先生、おめでとうございます」

医局に戻るとクールビューティーというべきか。
黒谷が美しい笑みを浮かべた。

「どうもありがとう」

透は頭を下げて自分のデスクに着く。

「先生、院長室で凄いバトルをしたらしいですね」

「…はい?」

透は腕組をして黒谷に見つめた。

「院長先生を刺しそうな勢いだったって…」

「…逆」

全く、ナースネットワークは速報が流れるのは早いけれど、確実な情報は何一つない。

「逆?」

黒谷の眉間に皺が寄った。

「うん…。
めちゃくちゃ怒られた。
一度、ハルを実家に連れて行かなければならないんだけど、多分、そこで本気でヤられるな、僕」
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