いつか孵る場所
透と至は父親が他人に頭を下げる光景を初めて見たかもしれない。

二人は顔を見合わせた。



「…私は上手く立ち回る自信なんて全くありません。
それでも私が透の隣にいて、上手く事が収まるなら私は行きます。
…でも」

ハルは起き上がり、目を軽く閉じた。
そして胸に手を当てる。

「今日みたいに吐いたらどうしよう…」

つわりが酷すぎる。
行くのは行くが、自分のこの吐き気をコントロールする自信の方が、その場で罵られて耐える事よりもない。

「オジサマ連中に向かって吐いちゃえ〜☆」

天真爛漫な声が後ろから聞こえた。

桃子が舌を出して笑っている。

「ハルちゃんの体調が悪いとお義父様がお伝えしているはずなのにそれでも連れて来いって言うんでしょ?
大馬鹿者ね。
ならばそれがどういう事か、判らせれば良いじゃない?」

時々桃子は大胆、且つ的確に相手を攻撃する癖がある。

「はいはい、そんな話はこれくらいにして、食事にしましょう。
ハルさん、辛ければ横になっていていいし、起きて話だけでもするなら透の隣へどうぞ」

母、小夜はそう言ってテーブルの上に豪華な食事を置いていく。



今までのガチガチに凍った関係が少しずつ溶けていく感じがした。
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