いつか孵る場所
「最初は嫌じゃなかった?」

透の疑問に至は首を横に振って

「何が嫌か、よくわからなかった。透みたいに反発する気も最初からなかったし。ほとんどの人ってそうじゃないのかなあ。どう生きていっていいのかわからないから目の前にある環境にしがみついてさ。必死に足掻いて流れに食らいついている」

至は伸びをしてから起き上がり、

「だから透みたいな人間には自由に生きてもらいたいと思う。透は中学受験も嫌がって受けず、高校も敢えてランクを何段階も落として、何がやりたいのかこっちから見たらさっぱりだけど、それだけ自分の意志を通すなら一体透はどこへ行くのか、僕は見てみたいよ」

「…いやあ、そんな風に言われる事じゃないけど」

本当に買い被り過ぎだと透は思う。

適当に言って、親の圧力から逃げているだけだから。

「あの親からそこまで逃げるのは凄いと思うよ」

クスクスと至は笑った。

「なんというか納得出来ないだけで…」

「充分な理由だよ。何となくでも自分が納得出来ないものを受け入れる必要はない」

まじまじと見つめる透にニヤッと笑うと

「透は僕よりも色んな可能性を持ってる。陰ながら応援してるよ」

そう言って立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。

「あ!」

至はクルリ、と透の方に向いて

「淡路さんとその後、どうなったのか、兄として気にしているのでまた結果を教えてね」

透の瞬間湯沸し器のような赤くなる顔を見て、からかうように笑う至だった。
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