いつか孵る場所
「いきなり来てごめんなさいね」
翌朝、朝9時には透の母、小夜がやって来た。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
ハルも頭を下げて、部屋に通した。
透から小夜は紅茶が好きだということでダージリンを出すと
「良い香りね」
と上品に微笑んだ。
その笑顔が何となく透に似ているな、と思った。
「昨日は疲れたでしょ?まだ疲れが残っている顔をしているわよ」
「はい、まだ少し」
小夜はじっとハルを見つめる。
そんなに見つめられると本当に緊張する。
「…透のせいなのかな」
ハルは思わず赤面すると
「ハルさん、正直で良いわ~!さすが、透が選んだ奥様ね」
小夜は手にしていたティーカップをテーブルに置く。
「高校の時は嫌な思いをさせて本当にごめんなさい」
ほぼ90度に頭を下げられてハルは手をブンブン左右に振った。
「言い訳になるけれど、夫の親戚はあんな感じなので。
どうしても透には回り道とか横道に逸れたりして欲しくなかった。
そう思えば思うほど、透は私達の手からスルリと抜けて遠くに離れていって。
こちらに帰って来たときも透は実家には戻って来ず、ずっと一人暮らし。
病院とこのマンションの往復で毎日を過ごしていたのね。
一体、何を楽しみに生きていたのかしら。
あの子、ハルさんに会うまでこの世界は何色に見えていたのかしらね」
小夜は天井をぐるりと見た。
「透とハルさんが病院で偶然再会したことは至から聞きましたよ。
あの二人は誰にも止められない、いい加減、透もハルさんも解放してやってって至が言って。
…お父さんと話し合って、二人がちゃんと挨拶に来たらその時は快く許そうって言っていたのに~」
残念そうに小夜はハルのお腹を見つめた。
「先に赤ちゃんが出来てるんですもの。
お父さん、ハルさんの上司が電話してきた時に心当たりがなかったけれどひょっとしたら透の彼女かも、と思って対応したらしいの。
検査結果を見てビックリ。何度も見て、産婦人科の先生に超音波もお願いしたら間違いないとのことで。
そのまま入院手続きをお父さんが出して、透を呼び出して大激怒。
あの子、そんなに動揺する子じゃないのにね。動揺しすぎてビクビクしてたらしいわよ。
でも、そこは自分のしたことをしっかり認識してもらわないとね。
家に帰って来て珍しいものが見れたってお父さん、笑っていたわ」
思わず、ハルは笑ってしまった。
「…至と桃子さんには残念ながら子供が出来なくて、初めての孫なの。
協力できることは何でもするからね。いつでも言って」
「…無事に産まれるまでは、まだまだ先の話ですよ」
「だから!大事にしてね、体」
小夜の必死さにハルは『はい』と言うしかなかった。
仕方がないとはいえ、さすがにプレッシャーがきついなあ、と思う。
お昼はハルが簡単なものを作ってみたが、小夜は美味しい、と言って喜んで食べてくれたのでホッとした。
昼からは呼んでいた神楽がやって来て、マタニティ服と産後にも着られそうなゆったり目のワンピースやら、これまたハル好みのものが届けられた。
「じゃあ、神楽さん、この分はこちらで」
「かしこまりました」
ハルは買ってもらうのは悪い、と言ったが小夜はこれくらいはさせてくれ、の一点張りだった。
小夜は神楽とともに午後3時前には家を後にした。
「家の件、前向きに考えてね」
やっぱり小夜も家の事を言って帰った。
ハルの中ではその答えはもう決まっている。
後は透次第。
その前に、ナツに会わなければいけない。
まだ早いけれど、週末の準備を少しずつ始めた。
翌朝、朝9時には透の母、小夜がやって来た。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
ハルも頭を下げて、部屋に通した。
透から小夜は紅茶が好きだということでダージリンを出すと
「良い香りね」
と上品に微笑んだ。
その笑顔が何となく透に似ているな、と思った。
「昨日は疲れたでしょ?まだ疲れが残っている顔をしているわよ」
「はい、まだ少し」
小夜はじっとハルを見つめる。
そんなに見つめられると本当に緊張する。
「…透のせいなのかな」
ハルは思わず赤面すると
「ハルさん、正直で良いわ~!さすが、透が選んだ奥様ね」
小夜は手にしていたティーカップをテーブルに置く。
「高校の時は嫌な思いをさせて本当にごめんなさい」
ほぼ90度に頭を下げられてハルは手をブンブン左右に振った。
「言い訳になるけれど、夫の親戚はあんな感じなので。
どうしても透には回り道とか横道に逸れたりして欲しくなかった。
そう思えば思うほど、透は私達の手からスルリと抜けて遠くに離れていって。
こちらに帰って来たときも透は実家には戻って来ず、ずっと一人暮らし。
病院とこのマンションの往復で毎日を過ごしていたのね。
一体、何を楽しみに生きていたのかしら。
あの子、ハルさんに会うまでこの世界は何色に見えていたのかしらね」
小夜は天井をぐるりと見た。
「透とハルさんが病院で偶然再会したことは至から聞きましたよ。
あの二人は誰にも止められない、いい加減、透もハルさんも解放してやってって至が言って。
…お父さんと話し合って、二人がちゃんと挨拶に来たらその時は快く許そうって言っていたのに~」
残念そうに小夜はハルのお腹を見つめた。
「先に赤ちゃんが出来てるんですもの。
お父さん、ハルさんの上司が電話してきた時に心当たりがなかったけれどひょっとしたら透の彼女かも、と思って対応したらしいの。
検査結果を見てビックリ。何度も見て、産婦人科の先生に超音波もお願いしたら間違いないとのことで。
そのまま入院手続きをお父さんが出して、透を呼び出して大激怒。
あの子、そんなに動揺する子じゃないのにね。動揺しすぎてビクビクしてたらしいわよ。
でも、そこは自分のしたことをしっかり認識してもらわないとね。
家に帰って来て珍しいものが見れたってお父さん、笑っていたわ」
思わず、ハルは笑ってしまった。
「…至と桃子さんには残念ながら子供が出来なくて、初めての孫なの。
協力できることは何でもするからね。いつでも言って」
「…無事に産まれるまでは、まだまだ先の話ですよ」
「だから!大事にしてね、体」
小夜の必死さにハルは『はい』と言うしかなかった。
仕方がないとはいえ、さすがにプレッシャーがきついなあ、と思う。
お昼はハルが簡単なものを作ってみたが、小夜は美味しい、と言って喜んで食べてくれたのでホッとした。
昼からは呼んでいた神楽がやって来て、マタニティ服と産後にも着られそうなゆったり目のワンピースやら、これまたハル好みのものが届けられた。
「じゃあ、神楽さん、この分はこちらで」
「かしこまりました」
ハルは買ってもらうのは悪い、と言ったが小夜はこれくらいはさせてくれ、の一点張りだった。
小夜は神楽とともに午後3時前には家を後にした。
「家の件、前向きに考えてね」
やっぱり小夜も家の事を言って帰った。
ハルの中ではその答えはもう決まっている。
後は透次第。
その前に、ナツに会わなければいけない。
まだ早いけれど、週末の準備を少しずつ始めた。