いつか孵る場所
ナツの部屋を早々に去り、二人は今日、宿泊予定のホテルに行った。

田舎とはいえ、リゾート地に近いのでそれなりの格式のあるホテルだ。



「ハル、どうしたの?」

ベッドに座ってニコニコしているハルを見て思わず声を掛けた。

「初めての旅行だし」

そう言われてようやく気が付く。
普段から学会やら何やらであちこち行くのでそういう感覚が透にはない。

「本当だ、全然その感覚がなかった。
ごめん」

透はハルの隣に座ってハルの手を握りしめた。

「今度は純粋にどこかへ遊びに行けるように、努力するよ」

透の提案にハルは素直に頷く。

その様子が本当に嬉しそうなので、どうにかして叶えたい。

今のままでは休みを取ることさえ難しいけれど。
でも、もし機会を作る事が出来たらどこかへ連れていってあげたいと透は思う。

次は子供もいるだろうし。



「2ヶ月前まではこんな事、想像も出来なかったな…」

毎日、仕事に明け暮れていた。
人の生死の狭間に立たされ、ただ目の前にある命を救う為、悪い部分を良くする為ににひたすら努力する。
それだけの生活にもう一度戻る事が出来るか?

そう聞かれたら

『絶対に無理』

って即答出来る。



ハルに出会ってしまったから。
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