いつか孵る場所
「私も2ヶ月前は仕事ばっかりだったよ。
何も楽しくなかったし」

「でもハル、あの上司と一時は付き合おうとか思ったんじゃなかったっけ?」

意地悪な質問だ。
ハルは頬を膨らませて

「そんなの、本当に最初だけ。
途中からもう一緒に仕事したくなくて…。
もう会いたくないな」

うんざり、というような顔をする。

「ハル、そう思うならもう仕事辞めなよ」

透はハルを抱き寄せて自分の太股の上にハルを座らせた。
向き合う形で座った。

「うん、私も考えてた。
仕事は好きだけど…。
今の状態で続ける自信がない」

それはこの前入院した時から考えていた。
ただ、色々としてくれた神立には申し訳ないとは思う。



「ねえ…ふと思う事があるんだけど」

「何?」

「もし、もしも病院じゃなくてあの同窓会で私達会っていたらどうだったかなあ」

そんな質問に透はしばらく考え、

「難しい質問だね、それ」

あの同窓会。
顔触れを見て懐かしかったけれど息苦しさもあった。

それなりに歳も取り、自分の立場もそれなりになり…見栄の張り合い。

少なくとも透はそう思った。

真由も価値観変わった友達にウンザリしていた。

あんな中でハルに会っても…。

今のようにはならなかったと思う。

あの時、会わなくて良かった。

ハルが最初に倒れた時、たまたま当直だった。
もしあれが日中だったら運び込まれたところでわからなかっただろう。



全てのタイミングが合わないときっとここまで辿り着けなかったと思う。



「ハルは同窓会、楽しかった?」

その問いにハルは首を横に振った。

「あまり。私、そんなに友達いなかったし。あ…でも」

ハルの顔が急に明るくなる。

「平野さん!」

「えっ?」

「平野さんがね、話しかけて来てくれたの。
高校の時もそんなに話したことはなかったのにね。
私に上司との話は止めておいた方がいいって言ってくれたの。
そのおかげかもね」

透は急に俯いた。

「そう…そうだったんだ」

ハルに会った、とは聞いていたけれど。
そんなことを言っていたんだ。
真由の笑顔が急に目の前に浮かぶ。
どうにか電話番号を聞こうとしてくれたり、ハルと透が再会しても食事に誘うタイミングが掴めないときに強引に透を煽ってチャンスを作ってくれた。

透は唇をかみしめてポロポロと涙を流すからハルは驚いた。

「どうしたの、透?」

透は小さく、ごめんと呟いた。
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