いつか孵る場所
「で、話を戻して。
同窓会でハルと僕が出会っていたら…。
結婚していないんじゃないかな、僕達」

それが透の答え。

「今じゃ考えられないよ、そんな事」

そのままハルを抱きしめた。

「…昔は自分の力だけで生きていくって思っていた。
でも、結局は色々な人の偶然…いや必然が重なりあって生きてる。
周りの人が自分の知らない所でフォロー入れてくれていたり、また自分もいつの間にかそうしていたり。
僕達がここにこうして一緒にいられるのも、僕達の想いはもちろん周りの想いもあってこそ、なんだよね。
だからその想いを無駄にしないように、生きていかないとね」

「うん、そうね」

ハルも透の腰に手を回した。

「1つ、聞いていい?」

ハルは視線を透と合わせた。

「透は平野さんの事、好きだった事がある?」

透はハルの視線を逸らさず、受け止める。

「…恋愛感情はない、今も昔も。
ただ、拓海の大切な人だからね。
何かあれば助けるし。
拓海との友情の延長だよ。
何、一瞬でも疑った?」

透はハルの額に自分の額を軽くぶつける。

「…いや、何か仲良さそうだから」

「ハル、それはもしかして妬いてくれてるの?」

透はニコニコ、いやニヤニヤ笑う。

「…拓海が亡くなってから、すぐに真由ちゃんは10歳年上の人と結婚したからね。
僕が入る隙なんてないし、そんな事を考えた事もない。
その辺りの事情も色々と知ってるけど、彼女も僕にはそういう感情はないね」

そう言って透はハルの唇を塞いだ。
その状態でハルを抱えるとベッドに寝かせた。

「…まだ疑問がありますよ、先生」

ハルは枕に肘をついて横になっている透を見つめる。

「ハルさん、どうしましたか?」

患者に問い掛けるような声を出す。
普段、子供相手なので更に甘さと優しさが加わる声。

「…反則だわ」

「ハルさん、反則ってなんですか?
ハルさんこそ、先生を生殺しにしてますよ」

透はそう言ってハルの首筋を人差し指で撫でた。

「ダメダメ、質問ですよ、先生」

ハルは透の手を掴んだ。

「平野さんは柏原くんが亡くなってどうしてすぐに結婚したの?」

透の顔が一瞬、ピクリと動いた。

「…今から言う事は、今、この場だけで消去する事。
出来る?」

真剣な眼差しがハルを捕らえる。
ハルは声も出せずに頷くしかない。

「真由ちゃん、拓海が亡くなってから妊娠している事がわかったんだ」

「えっ…」

「拓海と一緒にレースに出ていた人が、真由ちゃんとそのお腹の子を引き取るって言って、結婚したんだよ。
それがつい最近難病で亡くなった旦那さん。
…色んな意味で凄い人だったよ。何度か一緒に食事した事があるけどね」

ハルは目をパチパチさせていると

「はい、忘れる!」

透はハルの額を指で突いた。

「忘れられないなら、墓場まで黙って持っていくように」

そう言ってそのまま人差し指を再び頬、首と筋を通り、鎖骨に到達する。

「さて、ハルさん。
今日はお疲れ様でした。
少し体調を診てみましょうか…」

「先生!もう大丈夫ですよ!」

慌ててハルは反対方向へ向く。

「…元気があって宜しい。
いや、空元気だと困るので診察します」

「いやあ、変態〜!」

ハルはクスクス笑いながら透を見つめた。

「変態で結構。
ハル、挑発しすぎだよ」

透は未だに逃げようとするハルをギュッと抱きしめた。
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