いつか孵る場所
「何だ、明日までいるかと思っていたのに」
翌朝、ナツをホテルの朝食に誘い出した。
「ハルの体調が良くないから夕方には帰るよ」
昨夜、体調を更に悪くしたのは自分なのであまり言えない透。
「日下先生や水間先生と会わなくていいの?」
「うん、その前にメールで色々とやり取りをしているしね。
まあ披露宴は出席して欲しいとは直接頼んでおいたから、それだけで充分かな」
「いつするの?」
ナツが目を輝かせる。
「ハルの体調もあるけれど、夏くらいかな。
それくらいなら何とか安定するとは思うんだけど」
本当は産んでからでいいと透は思う。
絶対にその方が安全だから。
でも、ハルが早くした方が良い。
とにかく透の両親の顔を立てよう、と言った。
自分達の事で親戚にとやかく言われるのは可哀想だと。
「場所は決めたの?」
ハルは頷く。
「透が呼び出されない限り、来週の休みに一度行くつもり」
「お姉ちゃん、やる気満々ね!」
「…まあ、順番が狂ってしまったからこれくらいは」
そう言いながら透の脇腹をグーで突いた。
「…負担が大きくて本当にスミマセン」
その様子を見てナツは笑うと
「本当に20年、会っていなかったの?
って聞きたいくらい、二人はずっと一緒にいてる感じがする」
ナツは二人を見つめてニコニコする。
透もハルも顔を見合わせて微笑んだ。
「じゃあ、私、学校で自習するから、行くね」
食事を終え、ホテルのロビーでナツは別れを惜しみつつ、鞄を肩から掛けた。
「うん、頑張って」
ハルはナツの手を取る。
ナツも少し照れながら握り返した。
「なっちゃん」
透は上着のポケットから封筒を取り出すと
「本とか高いだろ?
少しだけど役に立てて」
とナツの鞄にそっと入れた。
「えっ、何入れたの?」
ナツは慌てて封筒を取り出すと中を見て
「ダメダメ、貰えない!」
と言って返そうとする。
透は苦笑いをして
「学生が本代をケチったら駄目だよ。
常に新しい本を買って自分の知識をもっともっと、広くしないと。
足りなくなったらいつでも言って。
なっちゃんからハルを奪ったせめてもの償い」
透はナツの鞄のファスナーを閉じた。
「…もぅ」
ナツは諦めたかのように首を横に振って、
「お兄ちゃんは昔と全然変わらない。
優しすぎだね…」
「誰にでもそうじゃないよ。
なっちゃんがハルの妹だからだよ」
透はナツの頭をポンポン、と軽く触ると
「今は必死に勉強して。
これは僕からのお願い。
今しないといつするの?その為のサポートなんてどうってことない。
なっちゃんが医師になる日を楽しみにしている」
「はい…」
ナツはうっすらと目に涙を浮かべるとハルに抱きついた。
「お姉ちゃんの結婚相手がお兄ちゃんで本当に良かった。
私も安心してこっちで頑張るから」
ナツはハルの耳元で呟くと、二人に手を振り立ち去った。
翌朝、ナツをホテルの朝食に誘い出した。
「ハルの体調が良くないから夕方には帰るよ」
昨夜、体調を更に悪くしたのは自分なのであまり言えない透。
「日下先生や水間先生と会わなくていいの?」
「うん、その前にメールで色々とやり取りをしているしね。
まあ披露宴は出席して欲しいとは直接頼んでおいたから、それだけで充分かな」
「いつするの?」
ナツが目を輝かせる。
「ハルの体調もあるけれど、夏くらいかな。
それくらいなら何とか安定するとは思うんだけど」
本当は産んでからでいいと透は思う。
絶対にその方が安全だから。
でも、ハルが早くした方が良い。
とにかく透の両親の顔を立てよう、と言った。
自分達の事で親戚にとやかく言われるのは可哀想だと。
「場所は決めたの?」
ハルは頷く。
「透が呼び出されない限り、来週の休みに一度行くつもり」
「お姉ちゃん、やる気満々ね!」
「…まあ、順番が狂ってしまったからこれくらいは」
そう言いながら透の脇腹をグーで突いた。
「…負担が大きくて本当にスミマセン」
その様子を見てナツは笑うと
「本当に20年、会っていなかったの?
って聞きたいくらい、二人はずっと一緒にいてる感じがする」
ナツは二人を見つめてニコニコする。
透もハルも顔を見合わせて微笑んだ。
「じゃあ、私、学校で自習するから、行くね」
食事を終え、ホテルのロビーでナツは別れを惜しみつつ、鞄を肩から掛けた。
「うん、頑張って」
ハルはナツの手を取る。
ナツも少し照れながら握り返した。
「なっちゃん」
透は上着のポケットから封筒を取り出すと
「本とか高いだろ?
少しだけど役に立てて」
とナツの鞄にそっと入れた。
「えっ、何入れたの?」
ナツは慌てて封筒を取り出すと中を見て
「ダメダメ、貰えない!」
と言って返そうとする。
透は苦笑いをして
「学生が本代をケチったら駄目だよ。
常に新しい本を買って自分の知識をもっともっと、広くしないと。
足りなくなったらいつでも言って。
なっちゃんからハルを奪ったせめてもの償い」
透はナツの鞄のファスナーを閉じた。
「…もぅ」
ナツは諦めたかのように首を横に振って、
「お兄ちゃんは昔と全然変わらない。
優しすぎだね…」
「誰にでもそうじゃないよ。
なっちゃんがハルの妹だからだよ」
透はナツの頭をポンポン、と軽く触ると
「今は必死に勉強して。
これは僕からのお願い。
今しないといつするの?その為のサポートなんてどうってことない。
なっちゃんが医師になる日を楽しみにしている」
「はい…」
ナツはうっすらと目に涙を浮かべるとハルに抱きついた。
「お姉ちゃんの結婚相手がお兄ちゃんで本当に良かった。
私も安心してこっちで頑張るから」
ナツはハルの耳元で呟くと、二人に手を振り立ち去った。