いつか孵る場所
「いやあ、凄いわ」

K-Racingは土曜日なのに早々と店を閉めた。

シャッターを半下ろしにした店内で延々と経緯を聞かれている透。

ここに来るといつも吊し上げられている気がする。

「ホンマ、真面目そうでヤル事えげつない」

店長の住吉 光がクスクス笑っていた。

「もう、何とでも言っていただいて結構です。
最初からそのつもりでしたから」

「そう返すか。先生も案外大胆だな。昔の俺みたい」

祥太郎にだけは言われたくなかった。

「いえいえ、祥太郎君みたいに遊んでませんよ」

と返すと

「今の俺は真面目だから。うん、全てにおいて」

祥太郎は手をひらひらと振った。

「本当に良かった」

真由はまだ泣いている。

「もう一生、本気で人を好きにならないんじゃないかって思っていたもの」

透は俯いて微笑んだ。

「僕もそう思っていたよ。ハルに会うまでは。
会えば…昔の感情が押し寄せて止められなくなったんだ」

あの、胸の高鳴り。
思い出すだけで胸が苦しくなる。

「それと真由ちゃん。
同窓会でハルが上司との関係を悩んでいた時に反対してくれたんだってね。
ありがとう、それがなければ今頃、こんな事にはなっていないよ」

ようやく泣き止みそかけていた真由だが、再び号泣しだした。

人の事は言えないけど、よくこれだけ泣けるな、と思ってしまう。

その瞬間、半開きのシャッターが開いた。

「先生、おめでとう~!!」

入ってきたのは真由の子供たち。
睦海の手には大きな花束。知樹はホールケーキの箱。
泰樹と桜はプレゼントの包みを持ってきてくれた。

「はい、先生」

睦海がニコニコ笑って手渡す。

「わざわざ…本当にありがとう」

思わず涙ぐむ。

「あ…泣かないでよ、先生!」

知樹が透の頭を撫でる。

「泣かせるような事をするからだよ」

「当然だよ、いつも先生は色々としてくれるから。
こういう時しかお返し出来ないしね」

泰樹が透の胸の中に飛び込んでくる。
ギュッ、と抱きしめる体。

知樹と比べると小さい。
元々喘息があるし、免疫力も低いから仕方がない事もある。
未だに月1で透が経過観察を行っている。

「先生、浮気しちゃ駄目だよ」

毒舌な桜に透は淡々と返す。

「しませんよ。
言っときますが奥さん一筋ですよ、僕」

「先生、言うねえ。
ちゃんと奥さんに向かって言ってやれよ」

祥太郎のアドバイスにも

「事あるごとに言葉にしているので大丈夫です」

無駄に突っ込まれないように返した。

「あ…そういえば」

ようやく泣き止んだ真由が

「今日、透君、バイクよね。
持って帰れないけど、これ」

その場にいた全員が

あ!

と声を上げた。
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