いつか孵る場所
「…うん、ありがとう。
本当に呼ぶわよ、先輩ママ」

真由の細い腕の中でハルが小刻みに震える。

「うんうん、大丈夫だからね」

真由はハルの背中を撫でる。



「ただいまー…」

玄関ドアが開き、透は目の前に広がる光景に驚く。

「何かあったの?」

「私が泣かせてしまった」

真由はごめん、と透に頭を下げる。

「ち…違う」

ハルは首をブンブンと横に振り、

「本当にありがとう、頼りにするから」

と真由にしがみついた。



「ホント、頼りにしているよ、真由ちゃん」

皆で食事をしながら透は経緯を聞いた。

「まあ、母親歴はそれこそもうすぐ19年になるし。
いつでも頼って」

真由は胸を張った。
確かに4人の子持ち、しかも下は三つ子。
頼りにはなる。

「まあ、ママじゃ頼りないからあたしも手伝います」

長女の睦海は下を出しながら笑った。

「…え~え~、どうせ私は頼りないですよぉ」

真由の拗ね方に思わずハルは笑う。

「子供よりもお子ちゃまですよ~…」

そう言って睦海の頬をぎゅっと押さえつけた。

「まま、いたい」

「お子ちゃまですから」

更に押さえて、睦海はギブアップした。



「本当にお邪魔しました」

楽しい時間もあっという間に過ぎ、真由は4人の子供を連れて玄関へ行く。

「先生、新しいお家にも招待してね!」

兄弟姉妹の中でも一番小さい泰樹がニコニコしながら言う。

「もちろん、いつでもまたおいで」

透は泰樹の頭を撫でた。

「じゃあ、またね」

真由は軽く手を上げて二人に微笑むと4人の子供たちと何やら楽しそうに会話をしながら立ち去った。

「…真由ちゃんってなんだか凄いね」

真由たちが立ち去って、ハルの口から思わず出た賞賛の言葉。

「若い時に子供を産んで、仕事もして、子供たちとちゃんと触れ合って。
旦那さんが亡くなったのって最近なのに、そういう素振りも見せずにいつも笑っている感じ」

透はフッと笑って

「彼女は色々な意味で最強だよ、本当に。
また色々相談に乗ってもらいなよ。きっといいアドバイスをくれるから」

透はそう言ってハルを中に入れて玄関のドアを閉めた。
< 179 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop