いつか孵る場所
11.いつか孵る場所
激動の春が過ぎ、透とハルが結婚式を挙げた暑い夏も過ぎ、

新居が完成した時には木々が色づき始めた秋。

そして季節は冬を迎えていた。



ノックが3回聞こえる。

「失礼します」

婦人科病棟の特別室。
きちんと挨拶をして入ってくる透。

「どう、調子は?」

「…本当に苦しい」

ハルは32週の検診の時に子宮頸管が短くなり、切迫早産と診断され、そのまま入院した。
24時間点滴で吐き気もひどく、つわりの時よりも食事をするのが大変だ。

「江坂先生が36週6日で一度点滴を外しましょうって言ってたよ。
そのまま陣痛が来なければ一度退院だって」

「あと何日?」

「5日」

「そっか…。一度、家に帰りたい」

ハルは引っ越してから1週間くらいしか新居で生活していない。
全てが慣れないことだらけで不安が大きかった。

「太田先生はいつ産まれても大丈夫って言ってたよ。
面倒をちゃんと見るからって。
僕もハルがしんどいなら今すぐにでも点滴外してもいいと思うけど、江坂先生は絶対に早産だけは避けたいって」

透の父、純がきっと江坂を脅しているに違いない。
そうとしか思えない。
母体も心配しろよ、と透は父に言いたかった。

「子供が生まれる前に一度、二人で家に帰ろう。
僕、来週の退院予定日、早く帰られるようにはしてあるから」

そう言うとハルはほっとしたように頷いた。

「ごめん、そろそろ行くね」

透はハルの額にキスをして部屋を出た。
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