いつか孵る場所
ハルが手を伸ばしたのはLDRの天井へ向かって、だった。

「ハル、大丈夫か?」

透がいつの間にか部屋に戻ってきた。

さっきまで目の前にいたであろう拓海と透の輪郭が重なる。

- 真由ちゃんが言っていたことはこういう事なんだ -

急に涙が溢れてきた。
透はハルを抱きしめるとハルも透に抱きつく。
しばらく泣いて気が済むとハルは顔を上げた。

「本当にお疲れ様」

透の声もその優しいキスもハルにとっては全てが甘かった。

「透も仕事なのに来てくれてありがとう」

「…そんなことを言われたら、僕、ハルを襲ってしまうかも」

透はニヤニヤ笑う。
ハルはさすがにイラッときて

「透!
私は透の性欲解消だけなの?」

「…そんな怖い発言、しないでください。
それにそんな事、1ヶ月健診が過ぎるまではしてはいけない事くらい、知っているし」

その時、ドアがノックされた。



「高石さん、病室に向かいますよ」

産科のスタッフがやって来た。

透はハルの手を取り、立ち上がらせる。

二人はそのまま、手を繋いで歩いていく。



「こうして二人だけで歩けるのもあと僅かだね」

「そうね」

ハルは透と繋いだ手をしっかりと握りしめる。

二人は一瞬立ち止まり、微笑み合った。
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