いつか孵る場所
「…で、黒谷先生は何をしに来たの?」

どうも気になるらしい。
ハルは苦笑いをして

「色々」

それ以上は言うまい。

「…色々、僕の悪口を言ってたんだね〜」

透の拗ねる様子にハルはクスクス笑う。

「ハル、僕は今日、このまま勤務に入るから…。
黒谷先生の代わりにね。
また時間があれば来るよ」

と透は言うとハルの唇にキスをした。

「うん、頑張って」

透は頷くとその瞬間、医師としての顔つきになる。
キュッ、と目元が締まった。





その直後、院長特権を使い、面会時間はまだなのに透の両親がやって来た。

「ハルさん、おめでとう。
そしてありがとう、本当にありがとう」

純がそう言ってハルの手を握り、何度も讃えて泣き出したのにはハルもビックリした。

「…お父さん、本当に孫を抱く日を楽しみにしていたから。
ハルさん、お疲れ様でした」

とは小夜。

「後で新生児室に…」

「お父さん、駄目ですよ。
可愛いのはわかりますが、今日見るのはガラス越しで。
それと時間外は他の患者様に示しがつきません」

小夜はまるで保護者のように言うのでハルはクスクス笑ってしまった。

「人ってね、変に肩書があるとどうしてもその特権を使いたがるのよね。
さすがに皆様の目に触れる事は…ね。
ハルさんもしっかりと透をコントロールして足を踏み外さないようにしてね」

「はい」

ハルは頷いた。
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