いつか孵る場所
いつかはこんな事になると思っていた。

胸が痛い。

透はその日、一睡も出来ずにいた。

お互い、大好きなのに別れなければいけない。

しかもそれはお互いの事を想った上で。

母がハルにどういう事を言ったのかはわからないけれど。

間違いなく呼び出して何かを言ったのだろう。



じゃあ…自分も。

親の元からスルリといなくなってやる。

覚悟は決まった。



「透、電話よ」

翌朝7時過ぎ。

母がドアをノックしてそう言った。

電話の相手は至だった。

確か当直で病院にいるはず。

「…透」

至の声が微妙に震えていた。

「よく聞いて」

「どうかしたの?」

「…柏原拓海くんが先程、亡くなったんだ」

そんな事を言われても、何、冗談を言ってるのって思ったけど。

至の嗚咽が聞こえて冗談でも何でもない。

本当の事だというのがわかった。

わかったけど、頭が酷く混乱して目眩がした。

その後の記憶は曖昧だ。

酷いショックで倒れてしまい、たまたま家にいた父がその場で処置をしたので大事には至らなかった。

いっそのこと、そのままあの世に行けたら良かったのに、とその後、何度か透は思った。

気がついた時には至が家に帰っていた。

交通事故で病院に運ばれてきた時、たまたま救急が忙しくて至が入り、患者を見て驚いた。

まさか自分の弟の友達が運ばれてくるとは思いもせず。

何度か顔を合わせた事があったし、カルテの名前も自分が十分、知っている名前だった。

目立った外傷がなく、レントゲンや腹部の検査をしたら肝臓を損傷しているのがわかり、すぐに外科医を呼んだ。

出来る限りの手は尽くした。

けれど…。

助からなかった。



「…もう…どうして」

透は頭を抱えた。

「どうして僕の大切な人たちはみんな、いなくなるのかなあ…」

至が透の隣に座り、背中を何度か軽く叩いた。

何度拭いても流れてくる涙。

家族の誰もが見たことのない号泣をしていた。

至が透を抱き締めてくれたけど、止まらない。

もう、本当にこの世からいなくなりたいと思った。
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