いつか孵る場所
「兄さん、ありがとう」
高校を卒業してすぐの3月。
透と至は空港にいた。
透は自分が望んだ大学の医学部に見事合格した。
「うん、頑張れよ」
自分が歩んできた道を弟も歩む。
応援しない訳にはいかない。
「何かあればいつでも連絡しろよ。あ、それと夏にある僕の結婚式には必ず出てくれよ」
至は親同士が決めた結婚をする事になった。
気が進まず、ずっと保留にしていたのに透の受験と引き換えにそれを呑んだ。
「兄さん…あのっ」
「いいから。僕の事は心配しなくてもいい」
身代わりになった、と思われたくないと至は思っている。
断ったところでまたそういう話を持ってこられるに決まっている。
「じゃあ」
透は手を差し出した。
至もその手を握り返して軽く握手する。
踵を返して透はゲートに向かった。
「お兄ちゃん!」
遠くで懐かしい声が聞こえたような気がした。
透は振り返って辺りを見回す。
− 幻聴かな −
心の中でクスッと笑うと再び目が合った兄に手を振った。
その瞬間、足元がふらついた。
「お兄ちゃん!」
顔を下に向けると何とナツがしがみついていた。
「なっちゃん…!」
思わず声が上擦る。
すぐに顔を上げると視線の先にはハルがいた。
「おめでとう、透」
合格発表は高校を卒業してからだったのに。
「どうして…?」
「透のお兄さんが教えてくれたの」
透が更にその先の至を見つめるとニコニコ笑っていた。
「私も就職が決まったの。4月から頑張るわ」
「…良かった、おめでとう」
ハルは相変わらずの柔らかい笑みを浮かべてありがとう、と答えた。
「お兄ちゃん!」
ナツが人懐っこい笑顔で
「カッコいいお医者さんになってね!」
キラキラした目で言われたら思わず目頭が熱くなる。
「うん、頑張るよ」
透はそう言ってナツを高く抱き上げた。
「いつになるかわからないけれど…。またここにも帰ってくるから」
ナツは高い高いをしてもらってはしゃぐ。
「ハル、これからは遠く離れるし何年も会えないから彼女でいて欲しいなんて言えないけど…。僕は今、ハルが好きだよ」
ハルの目がキラキラと濡れた。
「…ありがとう、透。でも透、あなたにはあなたの人生がある。それを束縛するような事は私には無理。私も透が大好きだよ。…本当ならもっと大人になってから会いたかったなあ」
ハルの涙がナツの頭に落ちた。
ナツが心配そうに見上げる。
「ハル、本当にありがとう」
透はハルとナツの頭を撫でて反対側を向くとゲートに向かって歩き始めた。
「お兄ちゃん、また遊んでね」
ナツの言葉に一瞬、振り返り、片手を上げた。
声を出そうものなら、大粒の涙が溢れる。
透は大きく深呼吸をして再び歩き始めた。
高校を卒業してすぐの3月。
透と至は空港にいた。
透は自分が望んだ大学の医学部に見事合格した。
「うん、頑張れよ」
自分が歩んできた道を弟も歩む。
応援しない訳にはいかない。
「何かあればいつでも連絡しろよ。あ、それと夏にある僕の結婚式には必ず出てくれよ」
至は親同士が決めた結婚をする事になった。
気が進まず、ずっと保留にしていたのに透の受験と引き換えにそれを呑んだ。
「兄さん…あのっ」
「いいから。僕の事は心配しなくてもいい」
身代わりになった、と思われたくないと至は思っている。
断ったところでまたそういう話を持ってこられるに決まっている。
「じゃあ」
透は手を差し出した。
至もその手を握り返して軽く握手する。
踵を返して透はゲートに向かった。
「お兄ちゃん!」
遠くで懐かしい声が聞こえたような気がした。
透は振り返って辺りを見回す。
− 幻聴かな −
心の中でクスッと笑うと再び目が合った兄に手を振った。
その瞬間、足元がふらついた。
「お兄ちゃん!」
顔を下に向けると何とナツがしがみついていた。
「なっちゃん…!」
思わず声が上擦る。
すぐに顔を上げると視線の先にはハルがいた。
「おめでとう、透」
合格発表は高校を卒業してからだったのに。
「どうして…?」
「透のお兄さんが教えてくれたの」
透が更にその先の至を見つめるとニコニコ笑っていた。
「私も就職が決まったの。4月から頑張るわ」
「…良かった、おめでとう」
ハルは相変わらずの柔らかい笑みを浮かべてありがとう、と答えた。
「お兄ちゃん!」
ナツが人懐っこい笑顔で
「カッコいいお医者さんになってね!」
キラキラした目で言われたら思わず目頭が熱くなる。
「うん、頑張るよ」
透はそう言ってナツを高く抱き上げた。
「いつになるかわからないけれど…。またここにも帰ってくるから」
ナツは高い高いをしてもらってはしゃぐ。
「ハル、これからは遠く離れるし何年も会えないから彼女でいて欲しいなんて言えないけど…。僕は今、ハルが好きだよ」
ハルの目がキラキラと濡れた。
「…ありがとう、透。でも透、あなたにはあなたの人生がある。それを束縛するような事は私には無理。私も透が大好きだよ。…本当ならもっと大人になってから会いたかったなあ」
ハルの涙がナツの頭に落ちた。
ナツが心配そうに見上げる。
「ハル、本当にありがとう」
透はハルとナツの頭を撫でて反対側を向くとゲートに向かって歩き始めた。
「お兄ちゃん、また遊んでね」
ナツの言葉に一瞬、振り返り、片手を上げた。
声を出そうものなら、大粒の涙が溢れる。
透は大きく深呼吸をして再び歩き始めた。