いつか孵る場所
「さっきはビックリしたよ」

夜中2時を過ぎるとピタリと患者は途絶えた。

透と至はソファーに腰を掛けてコーヒーを飲む。

「透が叫ぶなんてまずあり得ないし…」

至は苦笑する。

「まさか、ハルちゃんとは。…何かの巡り合わせかな」

「たまたまじゃない?」

あくまでも平静を装う透。

「いやいや、僕は期待してるよ」

ニヤニヤ笑う至に

「何を期待するんだよ?…とっくに終わった話だし」

プイ、と透は違う方向を向いた。

「まあ、僕も協力出来る事があればする」

至は立ち上がると透の肩を叩いた。

「ま、僕が担当するし安心して。ちょっと診てくるよ」

ハルはインフルエンザから肺炎を発症していた。

いつか、ナツがそれで入院したのと同じ状態。



- なんだかなあ… -



透は病棟に確認して入院の手続きを行った。

呼吸器は至の専門だから至に担当してもらう事に。

病棟に向かう至の後ろ姿が心なしかウキウキしているような…

「…はあ」

思わずため息をついた。



至にはそう言ったけれど、何かの巡り合わせとは自分でも思う。

そう思うけど。

長い年月が二人の間にはある。

20年近く経てば人は変わるだろう。

いつまでもあの時のまま、なんて人は誰もいない。



…いや、一人だけそういう人がいる。

− 真由ちゃんみたいにあのまま…なんてあり得ないよなあ、普通。 −

クスクス、と透の笑い声が静まり返った廊下に響いた。
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