いつか孵る場所
そのまま朝まで大忙し。

透の心も大忙し。

何とも慌ただしい土曜の朝。

午前中だけ小児科外来診察があるので引き継ぎが終わるとそのまま小児科外来へ向かう。

いつもならクタクタなのに、頭が冴えわたっている。

診察はもちろん、キチンとしていたけど心の中はハル一色。

外の世界がそろそろ桜の花を咲かせようとしているのと同じように自分の頭にも花が咲いてる、と透自身思っていた。

午後2時過ぎにようやく外来診察が終わり、入院患者の回診も終えた。

「透」

ナースステーションでデータの入力をしていると小児科病棟まで珍しく至がやって来た。

「ハルちゃん、少し落ち着いてきたよ」

「そう…」

周りの看護師が聞き耳を立てているのがわかる。

透はそのままモニターを睨んだまま入力を続ける。

「主治医の許可を出そう。会いに行っていいよ」

「はあ?」

透は手を止めない。

「いや、行って。指示ね、これ。」

「はあああ?」

とうとう透は手を止めた。そして至を睨みつける。

「内科医の担当でしょ?」

「最初に担当したのは貴方でしょ?そういうフォローを普段はするくせに今回だけしないの?患者によって差別するんだ?」

いつもなら透は救急外来を担当した時、入院させた患者を一度は診に行く。または後を任せた担当医に様子を聞く。

実は昨晩入院させた他の患者は診察の合間で様子を見てきた。

透は前髪をクシャっと掻き上げて

「離席します」

と小児科の看護師長に伝えると

「ごゆっくり」

と手を振られ、周りの看護師もにこやかに手を振っていた。

− ムカつく −

小児科のナースステーションは噂話で盛り上がるのだろうな。

− 人をワイドショーか何かのネタみたいに…悔しい… −

カツカツと廊下に鈍い音を響かせる足の動きが怒りを滲ませていた。
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