いつか孵る場所
内科病棟に行くと、また速いナース連絡網のお陰で看護師数名がチラチラこちらを見た。

透は軽く頭を下げて、ハルの病室に向かう。

インフルエンザがネックで個室に入っていた。

入る前に大きく深呼吸をする。

意を決したかのように顔を引き締め、ノックをして

「失礼します」

と一礼して入った。



ハルはグッタリとした様子でウトウトとしていた。

意識がまだ朦朧としている。

熱も39〜40度を行ったり来たり。

「…透?」

掠れた声で聞くハル。

「うん…」

「お医者さんになったのね…」

肩で呼吸しながらハルは少しだけ微笑んだ。

「…うん」

透は点滴のモニターを確認して

「…無理をした?」

ハルを優しく、そして切なそうに見つめた。

「…年度末だから忙しい」

「無理しすぎだよ」

仕事に対しての無理は決して負けない透だが、自分の事は棚に置いて言った。

「でも…人が少なすぎて…」

どの職場でも同じような問題があるみたいだ。

「もう、仕事の事を考えても仕方がないから。ゆっくり休んで」

透はそう言ってハルの頬に手を当てた。

「無理は厳禁だよ。ハル、僕はもうそろそろ仕事が終わって帰ってしまうけれど、携帯貸して?」

ハルは棚を指差した。

透はそれを手に取り、自分の番号に掛けた。

「何かあればすぐ、この番号に電話して。駆けつけるから」

「うん…」

ハルは辛そうに頷く。

「じゃあまた、出勤した時は様子を見に来るから」

名残惜しいが、ハルの状態はあまり良くない。

透は病室を出た。
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