いつか孵る場所
彼女の名は淡路 ハル。

見た目はごく普通の女の子。

彼女には歳の離れた妹がいる。

父親はいない。

母子家庭で母親は水商売をしながら二人を育てている。

高校からの帰り道、保育園に寄って妹を迎えに行くのが常だ。

全く育った環境が違う二人。

二人が出会ったのは2年の文化祭。

ハルは母親が連れてきた小さい妹の手を引き、一緒に歩いていた。

ふと美術室の前を通ると

【あなたの似顔絵を描きます。お代は気持ちを缶の中へ入れてください】

そうボードに書かれてあったので入ってみると、そこには窓際でぼんやり空を見つめている透がいた。

「いらっしゃいませ」

そう言って微笑む透。

品のよさが滲み出ていた。

「あれ?可愛いねえ」

ハルの後ろに隠れるようにしている妹のナツ。

「何歳?」

透はそっとナツの前にしゃがんで目線を合わせた。

「…」

ナツは警戒するような目で透を見つめている。

「似顔絵、描いてあげようか?」

透の優しい声に警戒を解いたのかナツは声を出さずに頷いた。

椅子にナツを座らせて、透は鉛筆で描き始めた。

ハルもその横で様子を見つめる。

遠くに聞こえる生徒たちの声。

ここは窓から入る心地よい風を感じつつ、静かな空間が産まれ、穏やかな時間が流れていた。
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