いつか孵る場所
「先生」

回診に行くと更に爆弾を投下される。

7歳の男児、名前は樹。喘息で入院している。

「先生、結婚するの?」

「…誰に聞いたのかなあ~?」

思わず手を震わせる透。

「昨日、看護師のお姉ちゃん達が言ってたよ!!良かったねえ」

無邪気に笑う樹。

そして咳き込むので無理しないように注意をする。

樹のお母さんは焦ってスミマセン、と謝る。

透はいえいえ、と笑顔を見せるが腸煮えくり返っていた。



午後からは帝王切開の手術があり、今日は透が立ち合う事になっている。

ハルの事も気にはなったが、様子を見に行く時間はほとんどなさそうだった。

まあ、なければそれで良いと思う。

下手にやるとまたナースネットワークの餌食になる。



正午になろうかという時。

透は産婦人科医の江坂と打ち合わせをしていた。

「ところで透先生」

江坂は50手前のベテラン産婦人科医だ。

「御結婚されるのですか?」

まさか江坂に言われるとは思わず、噎せた。

「…結婚、ですか?」

透が逆に聞き返す。

「ええ、噂になってますよ」

「どういう噂ですか?」

「しばらく会えていない彼女がインフルエンザを拗らせて動けなくなり、救急車を呼んだらたまたま当直に入っていた透先生が担当になった、と。
自分が医師なのに付き合っている彼女の状態をわからなかった先生はこのままじゃいけないと思い、様子を見に行くついでにプロポーズしたって」

「全くおかしいです、その話」

− ナースネットワーク、恐すぎ −

透は身震いをした。
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