いつか孵る場所
『はい』

数コールの後。
ハルの声が聞こえた。
電話の向こうの声は優しく、それだけでも透は癒されそうだった。

「ハル、体調はどう?」

周りがニヤニヤしながら透を見つめている。

透はわざと視線を外す。

『うん、だいぶ良くなった気がする』

「良かった」



いよいよ、本題。



「ハル、もう夕食は食べた?」

『えっ、まだ』

「そう、良かったら一緒に食べない?食べたいものがあれば何か買って行くよ」

『ええっ!』

ハルは叫んだ。

『わ…私の家は狭くて古くて…人が来られるような状態ではない気がする』

軽くお断りの言葉。

「そうか…じゃあ無理にっていう訳にもいかないね」

透の様子を見て周りの外野は断られたと思い、それをどうにか修復しようとアドバイスするジェスチャーでおかしい動きをしていた。

端から見ると明らかに変な集団だ。

「…食事に行く約束だったけど、ハルの体調もまだまだ回復がこれからだと思うし、僕も今週、家に帰る事さえ出来ないかもしれないし…」

透は周りの外野を目に入れないようにして続けた。

「今日はオンコールもないはずだから、今日が絶好の機会なんだ。今日逃せばいつになるか予定が全然わからなくて…」

『そうなんだ…』

「迎えに行くから僕の家に来ない?外での食事は気が引けるからやっぱり家の方がいいと思う」

周りの外野は一瞬、唖然としていた…が。

「いきなり家に呼ぶか」

「がっつきすぎ!」

「魂胆ミエミエ」

「警戒されるに決まってるやん」

「先生、危ない人だあ!」

小声で好き放題、言っていた。

透としては何の魂胆もない。

ただ、ハルの体調が心配なだけ。



しばらく無言が続いた。
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