いつか孵る場所
体が重い。
疲れがピークに達しているようだ。
先日、蘇生した赤ちゃんの様子を見るためにNICUに行き、その後は小児科病棟へ回診に行き、ナースステーションで電子カルテに入力をして気が付けば19時。
いったい何時間、働いているのかと数えていったら40時間に達していた。

- 帰ろう… -

そう思った時にPHSが揺れる。

「はい」

少し疲れた声で返事をする。

「今すぐ行きます」

緊急帝王切開で小児科から応援お願いしますとのことだった。

- 無事に産まれますように -

毎回、そう思う透だった。



『透?』

23時を過ぎた頃、ようやく透は解放された。

フラフラになりながら家まで歩く途中、ハルの声が聞きたくなって電話を掛けた。

「…ごめん、遅い時間に」

透は声を絞り出すように言った。

『ちょっと…透?』

「…うん、大丈夫。急に声が聞きたくなって」

『透、今、どこ?』

「帰る途中」

『…お疲れ様、何時間寝てないの?』

「もうすぐ45時間」

『…明日も、勿論』

「仕事だよ」

こんな些細な会話でも透には今まで感じた事のない安らぎがあった。

足が異常に重かったのに少し軽くなってくる。

「遅い時間に相手してくれてありがとう、ハル」

透は微笑んで通話を終える。

ふと空を見上げると美しい月が辺り一面照らしていた。

気持ちが少し上向きになって帰路を急いだ。
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