いつか孵る場所
− 透… −

電話を切ってからハルは急に心配になってきた。

時計を見るとまだ終電に間に合う。

とりあえず鞄に明日の着替えやら何やら詰め込んで…。

− あっ… −

さっきお風呂に入ってスッピンという事に気が付いた。

− もう、いいや −

ハルはマスクをして顔を隠し、家を出る。

外が明るい。
空を見上げると月が綺麗だった。

ところどころに植えてある桜の花が咲いていて、ふと高校の前にあった桜並木を思い出す。

たった1シーズン、1週間も咲いていなかったけど、二人で歩いた事を今でも鮮明に覚えている。

ハルはそんな思い出に浸りながら足早に駅へと向かった。



鍵は持っている。
けれど、開ける勇気がなくてチャイムを鳴らした。
時計を見ると午前0時を過ぎている。

『はい』

透の声がインターホン越しに聞こえる。

「透!」

『…えっ、ハル?』

慌てて透は玄関に向かい、ドアを開けた。

「ええっ…どうして?」

「心配だから、来たの」

その瞬間、透はハルをきつく抱き締めていた。
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