いつか孵る場所
車で20分ほどで着いた場所。

「うわ~!」

思わずハルは声を上げた。
20年経っても高校の前は変わっていなかった。
月明かりに照らされて桜の花びらが青白く浮き上がっている。

「やっぱり思った通りだね」

車から降りると透はハルの手を握り締め、長い桜並木を歩く。
このゆるやかな坂を上りきった所に校門がある。

「私、卒業以来、来ていない」

「僕もだよ」

本当に幻想的な風景で映画を見ているよう、とハルは思った。
しばらく無言て二人はゆっくりと歩く。
時折、ひらひらと舞い降りる花びらがもうすぐこの季節の終わりを告げている。

坂を上りきると全然変わっていない校舎が見えた。

「懐かしいねえ」

透は目を細めた。

「ここでハルと出会って、もう20年経った。20年間に数えきれないほどの出会いも別れもあったけれど、もう一度ハルに出会えたのは奇跡だと思っている」

ハルの手をぎゅっと握りしめて

「もう二度と、離さないよ、僕は。何があっても」

ハルが何かを言おうとして透はそっとハルの唇に人差し指を置いた。

「ハル、きっと今、君は不安でいっぱいと思う。僕の親の事とか、なっちゃんとか…。でも、僕は時間がないなりに責任は取るよ。ただね、やっぱり普通の男性より家にいる時間が極端に短い。それでハルに精神的な負担が掛かると思う。それがハルにとって耐えられないなら…」

「透」

今度はハルが人差し指を透の唇に置いた。

「私なら大丈夫。透が仕事で帰って来れなくても、いつでも待っているから」

透の目がキラリと光った。

「ありがとう」

透がハルを抱き締めた瞬間、風が吹き、大量の花びらが舞い上がる。



「ごめん、寒いのに無理をさせたかなあ」

時計は午前3時6分。

二人はマンションのロフトにいた。

「大丈夫。それより透、早く寝ないと…」

ハルは少し眠そうにしている。

「寝られると思う?」

透は眠そうにしているハルの上位に回り、耳元で囁く。

「僕、ハルの体調を気にしてこの前は何もしなかったけど…、もう限界かも」

透の唇がハルの耳に触れる。

「透っ!」

ハルの小さな抗議の声が聞こえた。

「明日、絶対に6時に起こして?このままじゃ絶対に起きないから。さすがに遅刻は出来ない…」

「いいよ、それならお安い御用…」

ハルはその言葉を聞いて透の唇にキスをした。
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