いつか孵る場所
「淡路さん」

昼休憩になるとハルは晴れていたら近くの公園で食事を取るのが日課だった。
社内の休憩室は女性達の噂話でドロドロ。
それと大竹が食事に誘いに来るのが嫌ですぐに職場を出る。

…はずが、会社の出入口で神立に呼び止められた。

「今からお昼?」

「はい」

「最近、お洒落なカフェが出来たの。一緒に行かない?」

突然の誘いに驚いたが、ハルは頷いた。

神立は管理職だからだろうか。
一人で行動している事が多い。

社内では取っ付きにくいイメージだが、ハルはそうでもなかった。

「…何かあったの?」

お洒落な店内の、窓際の席に二人は座った。

「えっ…」

「大竹くんを異常に避けてたから」

ハルは視線を落とす。

「…大竹課長にはちょっと付いていけないというかなんというか」

「確かに。彼は何か勘違いをしているわね」

神立はウンウン、と頷く。

「で、こんな事を聞いたら本当に気分を害するかもしれないけれど、二人は付き合っているの?」

「いいえ。何度か食事には誘われましたけど」

ハッキリと答えたので神立はホッとした様子で

「ああいう人は表面上は良いけどね。自分が頭がキレると思い込んでいて、実は全く方向違いの事をしていたり…。色々あるのよ〜」

苦笑いをしていた。

「実は入院していた時も一人でお見舞いに来られて…」

「…普通、異性の社員なら遠慮するけどねえ。数人で行くならともかく」

神立は呆れている。

「その時に付き合って欲しいとか言われて…。
その前からも言われていたんですが、何となく嫌な予感がして曖昧に断っていたんですが。
まさか入院中にまでそう言われるとは思いませんでした」

「ぶっ!」

神立は飲んでいた水を思わず吹き出し、ハルに謝る。
ハルはいえいえ、と手を左右に振る。

「人が倒れて入院しているのに何?そんな事をしてる間があれば少しでも仕事しろってね」

神立はテーブルを拭いた。

「あの日…途中でちょっと顧客の対応で外出しますって言うからそう思っていたら…。何してんだろうね」

神立の怒りは最もだ。

「その時、私を救急で診て下さったお医者様が入って来られたのです。それで一旦は話が途切れて…」

「中々やるわね、その医者」

「…実は昔、付き合っていた彼氏でした」

「…え?」

神立は目を丸くしてハルを見つめた。
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