いつか孵る場所
午後7時、医局で透が会議資料を作っていると

「…親子喧嘩」

小児科で後期研修中の黒谷がレポートを作成しながらボソッと呟く。

「…それが、何？」

チラッと黒谷を見る。
イライラする気持ちを抑えて。
とにかく、病院では触れられたくないのが恋愛と親。
兄は別に良い。

「噂になっていました」

「あ、そう」

透は素っ気なく返す。

「お見合い…」

「それが何？」

「多分、先生の次の見合い相手って私だったんですよねえ…」

透の背中が凍り付いた。
マジマジと黒谷を見つめる。

「そんなに驚かないでください。私もキャンセルしようと思っていましたから」

「…そう」



気まずい。

黒谷は聡明な女性で淡々と仕事をこなしている事が多い。
嫌いではないが苦手だった。



「親が勝手に決めてきた話なので。私の意見なんて全く聞かない」

黒谷が苦笑いをした。

「私は高校の時から付き合っている人と結婚しようと話し合っている最中なんです」

透は手を止めて黒谷の話を聞く。

「その人は高石先生がここに来る前にいた小児科医。…院長と揉めて辞めた人です」

「…若林さん？」

透の問いに黒谷は頷いた。
< 94 / 200 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop