いつか孵る場所
若林は確か透より2歳年上だったはず。
出来る限りの時間を使って治療の事を話し合ったり、悩むお父さん、お母さんの不安や愚痴を聞いて解決策を導き出す先生だ。
時には厳しい事もハッキリと言うのでたまに揉めたらしい。
この病院を辞めたのは当直の関係。
内科医より小児科医の方が人数が少ないのに当直回数が多かった。
院全体の会議で幾度となく若林は訴えたにも関わらず、改善されなかった。
その頃、透の父は今以上に力を持っていて、押さえつけた結果、若林は病院を離れた。
透もその名残で立場の割には当直が多い。
それでも頼るところがなくて自分に頭を下げてきた兄を思い、この病院に後任の小児科医としてやって来たのだが。

若林の話はよく至から聞かされた。



「若林先生はその後、どうされていますか?」

透の問いに黒谷は

「あの後、市立病院で2年、勤めて今は開業しています」

「そうですか…」

「私もここでしばらく経験を積んでから彼の元で働く予定です」

「うん、それはいいよね。頑張って」

黒谷は嬉しそうに頷く。

初めて心の底から笑った顔を見た気がした。

「高石先生も…、頑張って早く結婚してください。
じゃないと私も結婚出来ませんから」

「いやいや、僕なんか放置で黒谷先生は若林先生と結婚してください。
その後、僕が追い掛けますから」



二人は顔を見合せて、大声を出して笑った。
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