いつか孵る場所
「ただいま」

前はいつ、この台詞を言ったのだろう。
透はほとんど使わなくなった言葉に少し照れた。

「おかえり」

ハルは笑顔で出迎える。
そんなハルを思わず抱きしめる。

「お風呂も沸かしておいた」

「死ぬほど嬉しい」

透の腕に思わず力が入る。

「く…苦しいから」

ハルはモゾモゾと透の腕の中で動いて上を向く。

「…ごめん」

ようやく透は少しだけ腕の力を緩めた。
二人は顔を見合せて微笑む。

「ハル、お願いがあるんだけど」

「何?」

「一緒にお風呂に入って」

ハルは耳まで赤くなった。



透にとっては実家に住んでいた時以来、ご飯の用意がされてあったり、お風呂が沸いていたり、至れり尽くせりでこれほど幸せな事はないと思う。

大学に入学してからつい最近まで、そういう事が全くなかった。

ハルに再会しなければ、きっと今も未来もそういう事がなかったと思う。



「ハル、話があるんだけど」

食事も終わり、もうすぐ日が変わろうとしている。

ハルは用事を済ませ、透の隣に座った。

「…近々、僕の両親に会ってくれない?」

− 嫌がるだろうな… −

透は恐る恐るハルの顔を見る。

「近々…?」

戦々恐々のハル。
明らかに顔が怯えている。

「うん、色々とはっきりさせようと思う」

「…」

ハルは黙ってしまった。
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